阿蘇・龍神堂本部   
                           現在、街占は行っておりません

 今日は神社の縁日にあたりここY市まで足を延ばした。参道には露店が並び地元の
人だけでなく観光客や県外からも参拝客が押し寄せる混雑振り。何とか御利益を戴こ
うと皆必死で参拝している。子供の受験のお願いであろうか母親らしき女性が石段を
踏みしめ登って行く。その横には歳老いた夫婦らしき人や若い男女、或いは商売人らし
き人達が何れも皆拝殿を目指して登って行く。時折吹いて来る北風が木の葉を散らし
参拝修行の厳しさを人間世界に教え込んでいるかのようだ。
 夕刻までには少し時間があるので参拝を済ませたあと温泉に行き旅の疲れを解す。
 その後師匠から聞いていた地元の有力者のところに挨拶に行き街占が始まる時刻
を迎えた。しかし流石に外の風は冷たく、持参して来た懐炉を三個とも取り出して身に
着けた。見台を出し行燈に蝋燭を灯すと準備万端整いあとは相談者の御到来を待つ
だけである。
 ここは観光地であると共に有名な温泉地でもあるせいか路行く人達はどの人も顔艶
が良いし特に女性はきれいな人が多いのに驚かされる。

 そして今夜の最初の相談者は大学生であった。
 「あのぅ、おいくらですか?」
 「はい、500円ですよ」と応えると、少し考えていたが、
 「みて下さい、あのぅ、わたしは就職できますか?」と言う。
 直ぐに手相を拝見する。すると強い運命線を持ち仕事に生きる運命を現していること
がわかる。しかし女性としては不幸な事かも知れない、結婚ばかりが人生ではないが
やはり先々のことを考えたときには疑問が残りはしないか。次に断易でみてみると用神
旺相してしかも発動し回頭之生となり大吉の約束。そこで、
 「心配要りませんよ、一月には内定になり無事就職となります」と答えると、
 「本当ですか?あぁ良かったぁ」と言い満面嬉しさで溢れ、お礼を言い帰って行った。
 他の友達は皆内定を得ているのに自分だけがまだとなれば誰でも焦る。決まるとの
答えが出たことで安心したようだ。

 次の相談者は少し神経を遣う人であることは外見からも判断出来る。
 「手を差し出し、どうだろうか?」と問う。それ以外は何も言わず、こちらが口火を切る
のを待つタイプである。そこで、手を拝見し、
 「そうですね、この手相は強い面があり自己の一面を押し通すものを持ち、意見が合
わない時にはそれが目上であろうと引かないことがあります」と答えると共に、この人の
体から血の臭いがしていることに気付いた。そしてこの人はそこで初めて口を開き、出
た言葉は
 「これから人を○しに行く」と言う。歳の頃35歳位であろうか色々の事情があろうが何
とか考え直すことは出来ないものか問うが無理なようだ。それはこの人の因縁がそうさ
せるのである。別世界の者にはわからぬ厳しさが、この世にはある。易に謂うところの
陰と陽・善と悪・悲と喜・生と死・・・・・・・・
 そしてこの人は見台の上に料金を置くと人込みの中に消えて行った。
 様々な人々の様々な人間模様が往来するこの瞬間・・・・この僅か数時間だけの見ず
知らずの人々との出会いの瞬間、そしてそれに携わる自分の姿・・・・・・

 続いての相談者はまた男性。
 「手相はどうだろうか?と問われる。直ぐに手をとり拝見するが並の手相ですよと言い
たくなるのを我慢して、
 「変化の手相ですよ」と答えると、何と、
 「その通りだ」と言われ、こちらが驚いてしまった。今迄何ひとつ良い事がなかったと
言う。幼くして両親とも死別し叔父に引取られて育つものの途中は施設で暮らしていた
ことなど話される。だがこの人の話の途中では両親の姿が観えたので、
 「ご両親の墓参りをして出来れば位牌を作りご供養をしてあげて下さい」と伝えるが届
かないようだ。
 人それぞれ事情があるのが「人生」。しかし短命だったとは云え粗末に扱う人が増え
ているのは嘆かわしい。育てて貰った有り難さなどどこ吹く風、近親者のみならず他人
に対してもお礼を述べる言葉、感謝の言葉が消えて行く近年・・・自分のしてきた事等と
うの昔に忘れ他人の事には首を突っ込み誹謗を繰り返す無知蒙昧の縁無き衆生達。

 そして北風が厳しさを増す深夜の2時、歓楽街のネオンはとっくに消えて暗闇の中に
行燈の灯りだけが浮かび上がる街占であった。
 

                                       平成20年10.5記

 
 

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